税法修士論文の書き方

平成23年3月12日

一般社団法人 脱税防止推進協会

代表理事 佐藤大祐

1.はじめに

 わたくしごとで恐縮ですが、平成23年3月21日、東亜大学大学院を修了できる見込みとなりました。

 私が大学院での研究をこころざしたのは、研究がしたかったからではなく、税理士試験の税法科目の二科目免除を得るためでしたが、それが無事に終わり、ほっとしております(本学の過去免除実績は100%と聞き及んでおります)。

 これからの方に参考にしていただくため、忘れないうちに「税法修士論文の書き方」を記しておこうと2、3日前に思い立ち、週末に執筆しているという次第であります。お役立ていただければ幸いです。

 なお、読者として想定しているのは、税法二科目免除のためにこれから税法修士論文を書かれる方でして、より高水準と思われる一般的な(研究者の卵の)「税法修士論文」の書き方を論じたものではありませんことを、はじめにお断りしておきます。


2.最低限の予備知識(1)

 「税法修士論文」として執筆する論文は、「法律学」の論文になりますから、法律学とはどういうものの考え方をするのかということを、あらかじめ頭に入れた上で書いた方が、よいものが書けるように思われます。

 しかし、このこと自体が、まじめに取り組むとかなり難しい話題ですから、深入りしない程度に、学者が書いた初学者向けの「法学入門」を読まれるとよいでしょう。1回読んだ程度では頭に残らないので、3回くらい繰り返して読んで定着させることにより、後の作業(論文・判例の読み込み、執筆)がスムーズになります。個人的には、伊藤正己・加藤一郎編『 現代法学入門〔第4版〕』(有斐閣、2008年)をおすすめします。

3.最低限の予備知識(2)

 税法の講義で指定される、教科書と判例集があるかと存じますが、論文の執筆前か、執筆と並行して、これらをひととおりきちんと読むべきです。分量が多くて大変ですが、読んだだけの値打ちがあります。論文の執筆に活かせるのはもちろんのこと、今後の実務にも生きてくるのはおそらく間違いありません。

 余計なお世話ですが、「院免除です」といってうつむくのか、それとも「院で勉強しました」といって胸を張れるのかの違いは、これらの基本書をきちんと読み込んだかどうかにあるように思われます。

 ちなみに、これも三回読むのが理想です。個人的には、教科書として金子宏『租税法〔第17版〕』(弘文堂、2012年)、判例集として金子宏ほか編著『ケースブック租税法〔第3版〕』(弘文堂、2011年)を挙げておきます。


4.テーマ選定

 いきなり極論を申しますが、「書きたいこと」は書かない方が賢明です。人気があるテーマとしましては、(1)交際費や行為・計算の否認などの不確定概念、(2)移転価格やタックスヘイブン、タックスシェルターや組織再編がらみの、普段は敷居の高い話題、(3)勉強してこなかった税法科目(相続税や消費税など)、(4)通達などの税務行政の批判、が考えられますが、なんとなく、これらのことを勉強したいと思って資料集めを始めると、勉強したことをつらつら書き並べただけの、論文とは呼べないものになってしまうおそれがあります。

 そうかといって、税法修士論文を初めて書く人が、1年で書くのにちょうどよい、論文執筆に適したサイズの問題意識を持っているかといいますと、ふつうは「ない」と思います。

 ではどうしたらよいでしょうか。

 まずは、ご自身がやってみたいことについて、教科書の該当ページを開けて、読んでみてください。その中で、学者や裁判所の間で解釈が分かれているものや、最高裁で反対意見が表明されているものを選んで、ふせんを付けてみてください。いくつか付くはずです。

 その、いくつか付いた「ふせん」の中で、一番面白そうだと感じたものをテーマにすればよいのです。議論の参加者が多いテーマほど、勉強になりますし、論文にも厚みがでてくるように思われますから、教科書に載せられている文献の数をめやすにしてもよいかと存じます。そういうテーマを深く検討することで広がりが生まれ、結局のところかなりの広範囲を勉強したことになるのが、論文執筆の面白いところです。


5.文献の選び方

 上で書きましたとおり、まずはその教科書に挙げられている論文や判例を読むことです。次のステップとしまして、その論文で引用されている論文や判例を取り寄せて、読みます。さらに・・・という具合にやっていきます。めやすとしては、100くらいでしょうか。特定の先生に偏らないように留意してください。


6.文献の取り寄せについて

 個人的には、国立国会図書館の遠隔複写サービスが一番のおすすめです。

 インターネットで必要な箇所のコピーを申し込むと、複写して郵送してくれます。

 有料ですが、自分で図書館へ出向いてコピーをする手間ひまを考えますと、かなり割安だと存じます。


7.研究の進め方

 当初の問題意識(見解の対立)を念頭において、取り寄せた文献を読み進めていきます。その際、論文執筆の際に引用したい箇所があれば、その都度項目名をつけてエクセルなどに打ち込んでおくと、後々らくです。くれぐれも、出典を同時に打ち込んでおくのをお忘れなく。文献リストを別途作成して、文献1とか文献2というふうにしておくと効率的です。読んだ際の自分の考えを付記しておくと、後で論文を書く際に役立つと思われます。

 すべての文献の読み込み、引用したい箇所の転記が完了したら(締め切りに間に合わない場合は、完了していなくても)、論文の最初と終わり、すなわち、問題意識と結論部分を書いてみてください。

 なお、たいてい時間が足りなくなると思われますから、論文を読む順番も、考えて進めたほうが無難です。テーマから遠い文献を読んでいるうちに時間が差し迫ったりしますと、書けるものも書けなくなります。

・・・ここまでができれば、もう「だいじょうぶ」だと思います。あとは、指定された枚数や残された時間に応じて、完成に向けてがんばってください。


8.おわりに

 完成までにかなりの時間がかかりますので、仕事がある方は、朝晩や土日に時間をとって、計画的に進められるとよろしいかと存じます。秋から年末にかけて、ぎりぎりの院生が同じ文献に殺到する可能性があり、必要な文献が閲覧できない、なんてことも考えられますから、早め早めに余裕をもって動かれるのが吉であると、筆者は考えます。

 なお、上で書きましたのは「こうでなければならない」ものではなく、筆者が考えるもっとも効率的な方法(論文が仕上がると同時に力をつけるための)ですから、ひとつの意見として、参考にしていただければ幸いです。


追記 参考書籍(上に挙げたもののほか)

我妻榮『民法案内1 私法の道しるべ』(勁草書房、2005年)

佐藤英明『スタンダード所得税法』(弘文堂、補正2版、2011年)

拙著『税法修士論文Q&A 全26問

拙著「ゆっくりまなぶ租税法

 また、一般社団法人租税法務研究会として、論文作成のための助言サービスを承っております。


以上

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