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著者 タイトル 出版社 出版年
我妻榮 民法案内 1 私法の道しるべ 勁草書房 2005年
 経済学や物理学などといった、数学を利用する学問を修めた方で、法律学を勉強されたことがない方は、法律屋なんて屁理屈をこねているだけだ、とか、自動販売機のごとく答えが出てくるものだという印象をお持ちの場合が少なくないように思います。

 私自身数学が好きなので、もし自分が法律学をかじっていなかったならば、そういう印象を持つだろうと想像します。とくにそういう対抗心がなければ、「六法全書を全部覚えるなんて、奇特な人だ」と、また違う方向で感心を抱くことでしょう。

 げんに、わたしは法学部卒ですが、ハタチそこそこで社会経験が全くない当時では、結局なんのことやらさっぱり分かりませんでした。たまたま、流れ流れて税理士を目指すことになり、40手前で法学の大学院に進学して、そこで、なんとなくではありますが、伊達に歴史を経た学問分野ではないということを、悟った次第であります。ある人いわく、文系学問はオトナの学問だそうですが、これは言い得て妙なのかも知れません。

 本書は、戦後の法律学、とくに民法学において、大家というか、今風にいうと「神」的な存在の、我妻先生の著書です。岸信介元首相と東大の首席を争ったとか、先生は人格も出来ておられたとか、先生は天才だとか、人によってはそれだけでそっぽを向かれてしまうような感じもしますが、そんなエピソードはさておき、本書に目を通しますと、法律学とはなんなのか、ですとか、先生の偉さですとか、そういったことが「形而上学的に」腑に落ちる、そういった効能のある書物ではないか、というのが、読後3年前後経ってからの感想です。

 勉強するに当たっては、理屈を超えたところ、師匠ご自身や古典がかもしだす「風韻」、に触れる感動が、後学の者の大きな動機付けになっているような気がしてなりません。実際わたし自身、金子先生の講義を直にお聞きできたことや、我妻先生の本書を読む機会を得たことが、人生に大きな影響を与えているように思います。

著者 タイトル 出版社 出版年
伊藤正己・加藤一郎編 現代法学入門 (有斐閣双書) 有斐閣 2005年
 法律に関わる資格はとても多いのですが、資格取得のために必要最小限の勉強で、というのは、現代社会においては致し方のないことだと思います。ただ、その必要最小限が、その資格にまつわる仕事をなす上で、本来の必要最小限であればまだ良いのですが、往々にして、その資格試験を突破するための必要最小限というふうになってしまいがちです。

 このことは、その資格を取ったあとに、仕事のために、またちゃんとした勉強を改めてしなければならない、という二度手間を招くだけではなくて、そもそも、その資格試験自体を本来よりも難しいものにしている、ような気がしてなりません。

 これは、資格試験の専門学校が悪いのではないのだろうと思います。専門学校は、より効率的な指導方法をめぐって、資本主義の下でしのぎを削っていて、この競争によって指導方法が洗練されていくことは、全体的には社会にとって望ましいことではないか、と考えております。

 おそらく、実務や基本書の読み込みをつうじて、基本が断片的にでも身に付いている人が、こういった「効率的な指導方法」により指導を受けることは効率的であり、実は、その「効率的な指導方法」をさずける側にも、そのような暗黙の了解があるのではないかと思っています。問題は、あまり基本が身に付いていない人が、いきなりこのような「効率的な指導方法」に飛びつくことであり、結果として、本来の遠回り以上に遠回りをすることになることもあるのではないか、という気がしています。私自身がそうでした。

 前置きが長くなりましたが、法律を勉強する上で、いわゆる「効率的な指導方法」を受ける前に、最低限勉強しておいたほうがよいと思われるのが、本書です。これを読んだから全てがうまくいく、というわけではありませんが、なにがしかの法律に関わることを学ぶにあたって、その前に本書の内容を理解しておくことは、なにもしない場合と比べますと、明らかに効果はあるものと思います。

 そんなに値が張るものでもなく、また、分厚いものでもありませんので、できれば本書か、あるいは、ちゃんとした法学者が書かれた類似の入門書を手に取られ、3回程度お読みになることをお勧めいたします。
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