租税法全般のブックレビューのページ

著者 タイトル 出版社 出版年
金子宏 租税法 第18版 (法律学講座双書) 弘文堂 2013年
 知る人ぞ知る、租税法の基本書です。金子先生の学説=通説ということで、とりあえず引用しておけ、という使い方がなされている例を散見します。すなわち、読み物としてではなく、とりあえず辞書として使う、ということが巷間言われているようですが、それについてはいかがなものか、と思っております。

 そういう使い方ではなくて、やっぱり、教科書として、自らの血肉とすべく読み込むことが、著者である金子先生の思いに即したものではないか、とわたしは解釈しております。

 たしかに、なかなか読むのに骨が折れます。わたしなどは、半日かけても30ページくらいしか読めませんでした。ですが、なんとかかんとか3回読んでみたところ、格段の進歩を実感しました。卑近な例で恐縮ですが、RPG(ロールプレイングゲーム)で例えますと、上級ジョブに昇格した、という感じです。

 法律学の本は、後ろを読まないと前のことも分からないことが多いのですが、本書もその例外ではないようです。遠い学生時代、会社法の講義で、濱田先生が、法律の勉強は薄い色を何回も塗り返して濃い色にするようなもの、とか、あるいは辛抱強くかき混ぜていると段々と透明になってくる、という例えでご説明されていたように記憶しておりますが、この『租税法』も然りだと思います。税務六法を脇において、都度条文を参照しながら、少しずつ進めていくというやり方が、急がば回れですがかえって効率的でしょう。なお、3回読んだら理解度は3倍という比例関係ではなくて、繰り返すほどに効果は大きくなるように思います。体感では20倍になるという感じでしょうか。

 私は、租税法を習得することに関して、30代半ばで本格的な勉強を始めたこともあり、できるだけ最短距離で行こうと意気込むがあまり、かえって行き詰まっていました。暗記がうまくいかず、自己流で脱暗記を試行錯誤してもうまく行かず、保険をかけるつもりで東亜大学大学院へ入学しましたところ、入学当時、故田村先生に諭されたことは、税理士試験は忘れて法律の勉強・研究に打ち込め、ということでした。

 とはいっても、初めは半信半疑でした。しぶしぶというか、ま、試しに言うことを聞いてみるか、と「租税法」の勉強をする気になったのは、税理士試験の法人税法の試験を失敗して3回目、大学院生1年の12月のときです。

 典型的な「おまいう」、すなわち「お前が言うな」になってしまうかもしれないのですが、この方針転換は大正解でした。なかなか信じて頂くことは難しいと思うのですが、これはなかなか言語化が難しくて、なんとも申せません。例えが適切かどうか分かりませんが、漫画『ドラゴンボール』で、主人公悟空が亀仙人の下で行なった修行が、似ていると言えば似ているように感じます。たまたま本稿を読んで、だまされたと思ってやってみて、私と同じように「世界観が変わったかも」という人が増えたらいいなあ、としか言いようがありません。

 (追記:書評とはまったく関係がありませんが、なかなか書く機会がありませんので、この場を借りて書いておきたいことがあります。金子先生が最近出された論文集に、『租税法理論の形成と解明』という本(有斐閣、2010年)があるのですが、その本の上巻445ページに、刑法の分野で将来を期待されながら夭折された藤木英雄先生と金子先生が学生時代からの親友であった旨が書かれています。)

著者 タイトル 出版社 出版年
金子宏編 ケースブック租税法〈第3版〉 (弘文堂ケースブックシリーズ) 弘文堂 2011年
 事業所得か、給与所得か迷ったら、皆さんならどうなさるでしょうか? 民法上の組合からお金をもらったら、何所得になるでしょうか? 株式の有利発行は法人税法22条2項の「資本等取引以外の取引」にあたるでしょうか? 人格のない社団かどうか、どうやって判断されていますでしょうか? どういう租税回避ならば、否認されてしかるべきなのでしょうか? 租税法の分野にも、信義則の適用はあるのか/ないのか。あるとすれば、どのような要件を満たせば、それが適用されると言い得るのか? ・・・これらは、すでに過去にいろいろ議論されたり、裁判所で一応の判断がくだされているものです。

 それらの議論や判断が普遍的絶対的とは必ずしも言えませんが、実務に当たってこれらを踏まえておくことは、不毛な議論を避け、議論をより有利に進めるために、有意義であるように思われます。

 では、前例を押さえておくべきとして、どこから勉強すればいいのか、と悩むところですが、ちゃんとこういう本を作ってくださっているのが、実務家としてはありがたいところです。まずは最低限、この本で取り上げられている事例をやっぱり3回どおり勉強して、その上で個別の事案について調査研究するのが、遠回りのようで、近道なのではないか、という気がしています。

 どんな分野の勉強であれ、テキストを読み込むだけでなく、演習を繰り返すことにより、「わかる」から「できる」状態にすることが必要だと言われます。本書はまさにこの「演習」に相当し、上に挙げた金子先生の教科書と併用することで、大きな相乗効果を生むことでしょう。

著者 タイトル 出版社 出版年
谷口勢津夫 税法基本講義 第3版 弘文堂 2010年(初版)
 初版を読んだ感想です。

 本書は、阪大の谷口先生が書かれたものです。「なぜそうなのか」という素朴な疑問について、理論的・論理的かつ簡潔にまとめられていて、税理士試験を受験中に本書に出会えていればなあ、というのが正直な感想ですね(本書は総論の他、所得税法、法人税法をカバーしています)。専門学校がまとめた法令のサマリー(いわゆる「理論」)を書き写したり暗唱したりしてムリヤリ頭に叩き込もうとしていたあの時間を、こういう本をじっくり読むのに費やすことができていれば、もう少し要領よく税理士になれたかもしれませんね。人それぞれ、向き不向きありますが、私のように「理論暗記」が苦手な方で、これから所得税法か法人税法を受験予定の方には、救世主たる一冊になるかもしれません。

 ちなみに、もし、本書を教科書として、本書により基礎を固める、という利用の仕方をされる場合には、条文はもちろんのこと、参考として掲載されている裁判例にも出来るだけ当たったほうが良いと思います。最低限、百選やケースブックであっても、読むか読まないかで理解度が全然変わってくると思います。

 税理士には色々な活躍の仕方がありますが、税理士事務所を開業したら、納税者を守らなければならない立場になります。本書は、微に入り細を穿つというものではありませんが、だからこそ、実務の理論的背景として抑えておきたい一冊だと思います。


 さて、本書の租税回避に関する記述はかなり自由主義的にみえましたが、これは、先生が自由主義的だから信条的にそうなったというよりは、現行の憲法や法令からはそのように演繹されざるを得ないのだろう、という気がしています。某N先生が「(租税回避の研究は)脱税の研究と勘違いされる」と講演で苦笑いされておられましたが、租税回避は素朴な正義感から安易にNOと決めつけてしまいがちで、専門家としては常々自戒したいところです。

 また、譲渡所得は、清算課税説か譲渡益説か、最近の裁判例はどちらかいうと後者寄りで、金子先生はどちらかいうと前者寄りかなという印象をもっていますが、谷口先生は後者寄りと読めました。条文の書きぶりや昨今の社会通念を踏まえますと、それが妥当なのかな、というのが私自身の最近の傾向です。

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