対談者:佐藤大祐、玉村洋平(本会会員、税理士)
(承前)
佐藤:法令に「書いてないこと」が争いになるわけですから、いかに、説得力をもって、書いてないことを導くか、ということがポイントになってくるのですが、税理士になる際、そういう勉強は必要ないんですよね。
玉村:「いや、私はちがう。税理士試験でものすごい量の税法を勉強した。」という先生も多いと思いますが?
佐藤:いくらたくさん覚えていても、それだけではダメなんですよ。書いてないことを導くトレーニングが必要です。
玉村:現状ではもっぱら国税庁が出している「通達」に頼っていますね。通達とは、全国で税法の運用がまちまちにならないように、国税庁長官が税務署に出す「お達し」です。
佐藤:この「通達」は妥当な場合が多いですし、納税者に有利に書いてあることも多々ありますから、無視はできません。 ただ、現実世界は無限に変化していきますから全部は書ききれません。実務をやっておりますと、必然的に、どうしても、「書いてない場合」に直面します。 書いてある場合であっても、それを鵜呑みにするのではなくて、今この現実に対してそれが妥当するのかどうか、よく吟味する必要があると思います。
玉村:そうですね。自ら、法令を基点として論理的に結論を導いて、それを説得的に伝える能力が求められる、ということですね。まさに、これが「租税法務」。
佐藤:ええ、税務における、弁護士的な能力ですね。ただそれが、税理士になる際には問われていないので、自分で勉強しなければならない、ということになります。
玉村:弁護士的な能力なら、弁護士に任せればいい、なんて声もありそうですが。
佐藤:じつは、協力関係を築こうと思って、何人かの弁護士に声をかけたことがあるのですが、みんな消極的なんですよ。税法は難しいみたいで。
玉村:その一方で、税理士は、会計学や経営学を極める方が多いですね。管理会計とか、経営コンサルとか。これらももちろん大事ですけど。
佐藤:そうなんですよ。ですから、業界全体として、「租税法務」の需要に対する供給が足りていないように感じます。
玉村:そうですね。話をまとめますと、税務調査に納得がいかないときに、こちらが正しいと主張するためには、「租税法務」に強い人が役に立つだろう、ということですね。そして、得体の知れない「交渉術」や「コネ」はアテにならず、関わると危険な場合さえある、と(笑)。
佐藤:ええ、そして、いまのところ、税理士や弁護士の資格があるということと、「租税法務」の能力があるということは別の話であり、この「租税法務」のプロはまだまだ少ないということです。この「租税法務」が我々の強みであり、これからの「方向性」ですね。