対談者:佐藤大祐、玉村洋平(本会会員、税理士)
(承前)
玉村:先ほども出ましたが、納税者と税務署で折り合いがつかない場合、最終的には裁判になりますよね。 地裁、高裁、最高裁それぞれで判断が異なるくらい、微妙なケースもあります。また、納税者が最終的に勝訴するケースも最近は増えて来ていますね。
佐藤:そうなんです。ただ、裁判となるとちょっと・・・という方がほとんどではないでしょうか。お金もかかるし時間も取られますので。 税務調査で指摘されたことに納得いかない場合、どういう方法が良いでしょう?
玉村:税務調査のあと、調査官からこれだけ修正してください、といわれて、よくわからないまま修正申告書に押印されたりしてないでしょうか。 修正申告に応じるということは、たとえ納得がいっていないとしても、税務署の言っていることを認める、という大きな意味を持つわけです。 あとで第三者的立場の税理士が、その修正申告書を見せてもらって疑問を感じたとしても、以前でしたら「更正の請求」は法定申告期限から1年ですから、たいていの場合は期限を過ぎてしまっていて「後の祭り」でした。
佐藤:「更正の請求」というのは、税金を多く申告してしまったときに、減額を請求する制度のことですね。最近その期限が5年に延びました。 ただ、やはり、修正申告によっていったん認めたものをくつがえすためには、相当なエネルギーが必要かもしれません。ご依頼があれば、可能な限り考えてみようとは思いますが。
玉村:そうなってくるとどうですか、修正申告書を出さない、という選択があるんじゃないですか?
佐藤:ええ、そうですね。色々な思惑がありますので一概に「こう」と決められませんが、「出さない」という選択肢はあります。 修正申告をしなければ、税務署長は「更正処分」ということで一方的に納税者に追納の義務を負わせることができますが、納税者としては、それに対して「不服申立て」をすることができます。
玉村:税金に関しては、いきなり裁判に行けないんですよね。裁判の前に、この「不服申立て」をしなければならない。
佐藤:ええ。この「不服申立て」がやりやすいように、更正処分には「理由の附記」が義務づけられていますから、その理由のどこがおかしいのか、先ほど述べた「租税法務」の方法により主張すればいい、というわけです。
玉村:まとめますと、調査官の言い分に納得がいかないのなら、修正申告に応じないで、更正処分を待って、その処分の取り消しを求めて「不服申立て」を行なう、ということで、実は以前からこういう制度は用意されているんです。
佐藤:この「不服申立て」は、「税務署への異議申し立て」と「国税不服審判所への審査請求」の2本立てですが、国税不服審判所というところは、国税庁の一組織ではあるものの、公平な判断がなされているようですね。
玉村:審判所の判断は「裁判」ではなく「裁決」と呼ばれているのですが、その裁決事例集を見ておりますと、結論は妥当なものが多いですよ。必ずしも税務署寄りではありません。 といいますか、このような専門機関の手を借りずとも、納税者の言い分が正しいか、税務署の言い分が正しいか、明らかじゃないか、という事例が結構あるんですよね。これどう考えます?
佐藤:やはり、税務調査の現場で、説明が不十分だったからではないでしょうか。
玉村:納税者の言い分が正しいはずなのに、それを調査官にしっかり伝えることができていなかったり、逆に、税務署の言い分はもっともなのに、納税者にきちんと説明できていなかった、というわけですね。
佐藤:はい、調査官も人の子ですから、知らないことや勘違い、あるいは、コミュニケーション能力不足もあるかと思いますが、だからこそ調査の段階で税理士が、双方の説明不足を補うことが重要だと思います。
玉村:わたしも同じ意見です。われわれ税理士には、「不服申立て」の代理や、「税務訴訟」の補佐人の資格もあるわけですが、そんな大きな争いになる前、税務調査の段階こそ大事ですよね。
佐藤:そうですね、はじめは感情的な主張に終始して、後になって専門家の力を借りて「租税法務」的主張を始めましても、どうしても説得力が弱いですね。裁判官はそれまでの経過を参考にしますし。
玉村:わたしも実際、そういう例を経験しています。もっと早くご相談頂いていればな、と。できれば税務調査の段階から、あるいはもっと前の申告書作成の段階から関与させて頂いておれば・・・早い段階であればあるほど、いろいろ効果的な手段をご提案できますね。
佐藤:そうですね・・・。まあ、仮に不服申立ての段階から関与させて頂く場合でも、方法は考えますけどね。事例を勉強していきますとだんだん分かってくるところですね。